事務所便り

2019年 10月号

●体験談から探る企業経営の定石

 多くの中小企業経営者の方は、他の経営者の体験談を聞くことが好きです。

 自社の経営のヒントにしようとしている場合もあるし、失敗談などにもうなずく所があるからでしょう。
 しかし、他の経営者の体験談は、どうしても個人的なリーダーシップ等に目がいってしまい、結果、経営の本質から反れてしまう恐れもあります。
 したがって、企業経営の定石を基準に自社の経営を考察し、また他の経営者は、経営の定石をきちんと踏まえていたのだろうかと考えていくべきです。
 ここでは、企業経営の定石についてご説明し、次に、一人で少額から起業し成功しているN氏の事例を紹介します(繰り返しになりますが、ここでも経営の定石と照らし合わせて見てください)。

Ⅰ 企業を経営することは、何をすることか
1必要な額のお金が手元に入ること
 企業は、商品、あるいはサービスを絶えず提供することによって成り立っています。
 もちろん、この商品やサービスは自社製のものばかりではなく、他社からの仕入れもあります。
 そして、継続し提供するためには、仕入れや支払のお金が絶えず還流してくることです。還流する、とは、その前提として商品やサービスが売れることです。
 次に、売れた、つまりはお金が還流したとしても、次第にその額が減少するのであれば、いずれじり貧となります。
 したがって、少なくとも最初に使った以上のお金が還流してこなければ利益は出てないのです。
 ここで重要なのは、「利益が出ること」と「手元にお金が還流してくること」とは同じではないということです。キャッシュフローの重視がいわれるのはこのためです。

2事業の成績は「経理」で表される
 「お金が回っている」とは、何かを買うとか支払おうとしたときに手元にお金があるかどうかです。
 繰り返しになりますが、利益が出ていることとお金が回るということは別の話です。
 京セラの稲森和夫氏は「利益が出たとしても、その利益の額だけお金が貯まっているわけではない。その理屈を理解するためには、簿記の知識が欠かせない」と言います。
 やや長期で見れば、利益の額だけで手元のお金が増えたとしましょう。その時でも問題となるのは、必要な時にお金が手元に回ってくるかどうかです。
 このことは、資金繰りがつくかどうかの問題ですが、ここに資金繰り表の作成の意義があります。
 そもそも事業活動は、簿記という技術(経理)を使うことによってのみ、示すことができます。
 事業がうまくいっているかどうかも、経理上の数字として、試算表とか決算報告書などの形式で表し、はじめて判断が可能となります。

3企業の目的は商品に反映される
 ある商品、サービスをこの価格て゜売れば利益が出る、お金も回ると判断できたとしましょう。では、その商品、サービスがその価格なら売れるという根拠は、どこから求めたのでしょう。
 市場にない新しいものを提供するのであれば、その需要の見通し、どれだけ売れそうかが全てとなります。しかし、多く場合、すでに同じようなものは市場に出ている。そのような時の問題は、自社で提供する商品になりサービスなりの特徴、つまり“差別化”ができているかどうかです。
 差別化は、商品やサービスの機能そのものについてだけでなく、価格あるいは売り方、管理の手法など、企業活動のすべての側面が対象となります。
要するに新しい商品やサービスを提供するということは、企業の存在自体を他社と差別化することなのです。

Ⅱ事例~N製作所㈱~
 N製作所(概要:業歴65年、従業員25名、プラスチック製造(大型品)後継者有り)のN社長は、これまでの経営を振り返り「経営者には三回、勝負時期がある」。そして「一回目のときに失敗すると、挽回するのに10年は位はかかるだろう。その後も、二回目、三回目と分岐点となる大きな決断の時期がくるが、経営を確立するためには、最初の一回目と二回目を成功することが必要ではないか」と話す。
1一回目の分岐点
 N氏は、工業高校を卒業後、二年目に町工場の多い東京・S区で独立。S区はプレス加工業、金型製造業など都内有数の工業区です。
 N氏は、中古のプラスチック成型加工機で自電車のサドルを作り、日夜、卸売業者に納入。しかし、2年、3年と経っていくが、くたびれるだけの同じ日が続く。そうしては夜遅く一人で営業しているおばあさんの定食屋で食事して帰る日々。ある日、
N氏:「どうしたら金がたまるようになるのかな~」

おばあさん:「貯金するんだよ」
N氏:「おばあさんこそ、貯金する余裕があるのか?」
おばあさん:「あるよ、2千万円位しかないけどね」
N氏:「エッ!どのようにして貯めたんだ」
おばあさん:「貯金したからさ」
N氏:「……。」
 それから、N氏は苦しい中でも必死に地元信用金庫に毎月、定積みをしました。何度、その金に手を付けようと思ったか分かりませんでしたが、三年間もたつと抵抗なく積立てを行うようになりました。
 N氏は、その後、自己資金で機械を購入し、仕事を増やしました。
 そして、「不況は四年間続く、しかし好況期は半年しかない。不況期に借金が多いと、利益が出なくても受注せざるを得ないが、借金がなければ仕事を取らず好況期に貯めた蓄えでしのぐ…」という、経営方針を確立していきます。

2二回目の分岐点
 N氏の扱う商品、得意先は増えていきます。従業員は10名前後。
 独自商品を持ちたい思いは強く、N氏は食器、特にチョコレート等を入れる器をガラス製品に替えて、プラスチックで出来ないか挑戦しました。
 N氏の計画で特筆すべきは、この計画が三年間で成功しなければ撤退すると決めて実行に移したことです。
 薄いプラスチックに花などの模様をつけるという金型技術を開発。
 着手後、二年間はあっという間に経ち、2年10ヵ月目にようやく開発が実を結びました。
 この食器は、デパートだけで百万個の注文があり、業界では「Nカット」として知られています。
 最後に、N氏のとった経営戦略を企業経営の定石に照らし合わせ、二点だけお話ししましょう。
 N氏は、①内部留保(貯金)により赤字受注を避けていること、②技術開発を行う時に、自社の体力、特に資金繰りがつくか否かを冷静に判断していることです。

       

所長 堀 裕彦 中小企業庁“ちいさな企業

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