事務所便り

2024年 4月号

● 中小企業を取り巻く経済情勢 ~中小企業白書を参考に~

 中小企業経営者は、中小企業を取り巻く情勢を読み解こうと腐心しています。では、「なぜ企業経営者が情勢(変化していく物事の成り行きや様子)を知ることが大事なのか?」。

 このことについては古い話になりますが、印刷業界団体の役員であるK社長は1990年代、デジタル製版の黎明期に「これからはデジタル時代がやってくる」と仲間に警笛を鳴らしていました。しかし、その仲間の反応は、①デジタル製版は自分たちの職人技を超えないと否定する者、②率先してデジタル製版に取り組む者、③変化にまったく興味を示さない者の3タイプでした。
 そして、30年後、会社がなくなってしまったタイプがあります。それは、変化にまったく興味を示さなかったタイプでした。一方、否定派は常にデジタル化を見つめ警戒していたので対応を果たせたのです。
 変化に向き合う姿勢は、各企業で様々ですが、コロナ後の中小企業を取り巻く経済について考えていきたいと思います。
 中小企業団体に長年勤めているH氏は、「中小企業白書(中小企業庁発表)」を熟読しヒントを得ています。
 H氏は「中小企業白書は、中小企業の動向を調査・分析しているだけでなく、いつの間にか中小企業の全体の流れがそのような方向に進んでいくので、重視している」と話します。
 さらに、「中小企業白書は、従来、“こう進めるべきではないか”と言った教える論調だったが、アフターコロナ後は、“各企業が持っている力を発揮して欲しい”といった期待する姿勢になっている」と話します。
 さて、中小企業白書2023年版(以下 白書2023年版)を参考に今後の中小企業の経済動向を考えていくことにします。

Ⅰ 白書2023年版の概要
〈目次〉
1 令和4年度(2022年度)の中小企業の動向
2 変革の好機を捉えて成長を遂げる中小企業
3 令和4・5年度の中小企業施策
 中小企業白書の構成は、ほぼ毎年同じ(三部建て)になっています。
 第一部は、年度を振り返って経済情勢がマクロ的にどうであったかの記述です。
 第二部がメインとなり、その年の課題で白書作成者の意図が出ます。
 第三部は、いま行いつつある政策及び、今後やろうとする政策の紹介です。

Ⅱ 中小企業・小規模事業者の動向(価格転嫁)
 白書2023年版は、中小企業の実質生産性は、大企業と変わらない、むしろ大企業の生産性より高い。しかし、価格転嫁が出来ていない。これを図を用いて説明しています。これは、かなり踏み込んだ意見だと思います。
 説明では、
 「-厳しい事業環境のの中で、中小企業の価格転嫁力は足元では、総じて価格転嫁の状況は改善しつつあるが、労務費やエネルギー価格の転嫁に課題-」
 そして図により、価格転嫁が出来ていないため、生産性が低いということを明確化しています。
 図を見るにあたっては、次のようにイメージしてください。「前年度、大企業は1分間に製品を1個作る、そして中小企業も同様に1個作るとします。そして、大企業も中小企業も今年度は生産性が上がり、大企業は2個作れるようになり、中小企業の方は3個作りました。
 そして、販売時、大企業は高く売っている一方、中小企業は前年より安く売っている。
 最終的な付加価値は金額で見ることから、中小企業の生産性は上がっていないと見られることになります。

 図では、次のことを説明しています。
 16~18(年度)における大企業製造業の名目付加価値は1.6%、実質労働生産性と価格転嫁力の両指標がともにプラス。一方、中小企業製造業の名目付加価値は1.1%、実質労働生産性はプラスですが価格転嫁力がマイナスの指標です。
 結果、名目付加価値は、大企業製造業が中小企業製造業を上回るということになっています。

Ⅲ 中小企業のデジタル化促進に向けた取組
 2021年版白書では、デジタル化に向けた全社的な意識の醸成や経営者の積極的な関与の重要性を調査しており、2022年版白書は、デジタル化の取り組み状況を4つの段階に分類し、デジタル化の取組ほ進展させた企業が、一定数見られたことなどを明らかにしています。
 そして白書2023年版では、過去2年間の白書の調査を踏まえながら、中小企業がデジタル化の取組みを進展させるための戦略やデジタル人材等の分析をしています。
 分析結果では、“デジタル化が遅れていること”、“いざ導入されても活用できないこと”。そして、さらにDX化が遅れるということです。
 デジタル化は、一括りで説明出来ない幅広い課題であり、生産性にどのように役立っているのか(因果関係)を明らかにするのは相当難しいと思います。
 経営者の方で様々な見解はあると思いますが、2023年版白書の分析の中で注目すべき点を紹介します。
① デジタル化が進展している企業では、経営者が自らデジタル化を推進している。
  経営者が自ら意識している事が推進のカギになっているということです。例えば、業務の棚卸などを戦略的
 に実施することでデジタル化による効果が高まることになる。
② デジタル人材の確保・育成に向けた取組みを実施している企業ほど人材の確保ができる。

 

 

Ⅳ 最後に
 政府は東日本大震災後、中小企業政策をこれまで以上に進めてきています。
 経営者の皆様は、自身の会社の課題に向き合う際には、中小企業支援策等を参考にしていただきたいと思います。

       

所長 堀 裕彦 中小企業庁“ちいさな企業

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