事務所便り

2020年 11月号

●~こう変わった~ 改正保証人制度のポイント

 今年4月1日から新しい民法が施行されています。変更点は多岐にわたりますが、企業としては保証人制度の改正部分についてのポイントをおさえておく必要があります。新たな契約などを結ぶ際には、この改正点を注意しなければ、契約書の保証に関する契約条項が無効になったり、代金回収ができない場合に連帯保証人への請求ができないなど重大な支障が生じる可能性があります。
1 保証人と連帯保証人の違い
 保証契約とは、借金の返済や代金の支払などの債務を負う主債務者がその債務の支払をしない場合に、社債務者に代わって支払する義務を負うことを約束する契約をいいます。また、連帯保証人と保証人との違いも確認しておくことが重要で、以下の3つの違いがあります。
(1)催告の抗弁
 主債務者が返済できなくなった場合、代わりに返済をする義務を負っているという点では共通します。債権者がいきなり保証人に対して請求をしてきた場合には、保証人であれば「まずは主債務者に請求してください」と主張すること(催告の抗弁)ができますが、連帯保証人はそのような主張をすることができません。
(2)検索の抗弁
 主債務者が返済できる資力があるにもかかわらず返済を拒否した場合、保証人であれば主債務者に資力があることを理由に、債権者に対し主債務者の財産の強制執行をするように主張すること(検索の抗弁)ができますが、連帯保証人はこのような主張をすることができず、主債務者に資力があっても債権者に対して返済をしなければなりません。
(3)分別の利益
 保証人が複数人いる場合、保証人はその頭数で割った金額のみ負担すればよいですが、連帯保証人はすべての人が全額を返済しなければならない義務を負います(もちろん、本来返済すべき額を超えて返済する必要があるわけではありません)。
 以上のように、保証人に比べて連帯保証人にはより重い責任が課せられているため、企業側が契約をする場合には、保証人ではなく一般的に代表取締役等を連帯保証人にすることがほとんどです。
2 保証契約に関する改正点
(1)極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効
 個人(法人は含まれない)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となることに改正されました。この極度額は書面等により当事者間の合意で「〇〇円」など明瞭に定める必要があります。
 改正後は極度額を定めないで根保証契約を締結してしまうと、その契約は無効となり、保証人に対して支払を求めることができないことになるので、債権者にとっては大変注意が必要です。また、個人が保証人になる根保証契約については、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が亡くなったときには、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
(2)公証人による保証意思確認手続の新設
 法人や個人事業主が事業用の融資を受ける場合について、その事業に関与の少ない親族や知人などの第三者が安易に保証人になってしまい、その後多額の債務を負う事態が依然として生じています。
 そこで、このような個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合には、公証人による保証意思の確認を経なければならないことが新設されました。
 法律の施行後は、この意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても、その契約は無効となります。
 なお、この意思確認の手続は、主債務者の事業と関係の深い次のような者については不要とされています。
① 主債務者が法人である場合・・・その法人の理事、取締役、執行役や、議決権の過半数を有する株主等
② 主債務者が個人である場合・・・主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者
 これから保証人になろうとする場合は、保証契約をする前に原則として公証役場に出向いて、保証意思確認の手続(保証意思宣明公正証書の作成の嘱託)を行うことになり、この手続は代理人に依頼することができないため、本人自身が公証人から意思確認を受けることになります。
 したがって、余程のことでない限りは関係の薄い個人が保証人になることはなくなったともいえるでしょう。
(3)情報提供義務の新設
 保証人のために、次のような情報が提供されるようになりました。
① 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務
 事業のために負担する債務について保証人になることを個人に依頼する場合には、主債務者は、保証人になるかどうかの判断に資する情報として
・主債務者の財産や収支状況
・主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報
の提供をしなければならなくなりました。
 これは事業用融資に限らず、売買代金やテナント料など融資以外の債務の保証をする契約書の場合にも適用がなされます。
② 主債務者の履行状況に関する情報提供義務
 主債務者の委託を受けて保証人になった個人及び法人の保証人は、債権者に対して主債務についての支払の状況に関する情報の提供を求めることができることになりました。
③ 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
 債務者が分割金の支払を遅延するなどしたときに一括払いの義務を負うことを「期限の利益の喪失」といいます。
 主債務者が期限の利益を喪失すること、遅延損害金の額が大きく膨らんでしまいます。
 早期にその支払いをしておかないと、保証人としても多額の支払を求められることになりかねないため、保証人が個人である場合には、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2ヵ月以内にその旨を保証人に通知しなければならないとされました。
3 まとめ
 冒頭の通り、今回の改正で今年4月1日以降に締結する契約から適用がなされています。企業の場合には賃貸借契約書や基本取引契約を締結する際に保証人をとることは従来からでも行われていたすと思われます。
 従来のひな形のまま契約をしてしまうと、「無効」となったり、「十分な保証がとれなくなる可能性」も高いため、ひな形を変更することはもちろん、実際の契約の際には念のため専門家のリーガルチェックを入れることをお勧めいたします。

       

所長 堀 裕彦 中小企業庁“ちいさな企業

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