事務所便り

2021年 7月号

●企業の取り組むべき課題と対策
 ~無意識の思い込み~(アンコシャス・バイアス)

1 何が問題なのか?
 無意識の思い込みや無意識の偏見を「アンコンシャス・バイアス」といいます。昨年6~11月にインターネットで実施した約5万人の調査によると、96%が何らかの形で性別や働き方などで固定的な見方をしていることがわかりました。
 例えば、「親が単身赴任中」という状況で父親を想像し母親を思い浮かべない人は66%を占めており、母親がなぜ単身赴任なのかと問うことで傷つく人もいます。また、「育児中社員に負荷の高い仕事は無理」と考えている人は39%、「子供が病気の時は母親が休んだほうがいい」とした人が21%でした。このようにアンコンシャス・バイアスは日常や職場にあふれ、何気ない発言や行動として現れます。無意識の思い込み自体は、物事を迅速に判断し、日常生活を円滑に進めるプラス面もあります。
 その一方で、自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「よくあること」と見過ごされがちです。そのまま放置すると、社員のモチベーション低下やハラスメントの増加、職場のコミュニケーション不全、ひいては組織や個人のパフォーマンス低下など様々な弊害を生みます。そうならないためにも詳しく事例と対処法を見ていきましょう。

2 なぜ今、アンコンシャス・バイアスが注目されるのか
 アンコンシャス・バイアスは2010年代頃から注目されるようになりました。時代の流れとともに、非正規雇用・女性・外国人・LGBTなどの増加により組織が多様化したことが背景にあります。多様な社員をマネジメントする上での必須要件として位置づけられ、大手IT企業であるグーグル社やフェイスブック社が先陣を切って導入し、現在では金融証券、医療、製造などあらゆる日本企業もアンコンシャス・バイアス研修を導入しています。
 偏見を受けた側の声はSNSによってすぐに広がります。企業の経営活動においてアンコンシャス・バイアスは無視できないものになりつつあるのです。

3 アンコンシャス・バイアスのメリット
 前提として、アンコンシャス・バイアス自体を悪いものととらえてはいけません。アンコンシャス・バイアスは人の本能的ともいえる機能であり、複雑な意思決定を単純化し素早い判断を促すメリットがあります。ビジネスにおいては、経験からくる直感で成功することもあり、人は常に何らかのバイアスの影響を受けて意思決定し行動します。

4 アンコンシャス・バイアスが生み出す組織の悪影響
 アンコンシャス・バイアスが生み出す悪影響の典型は、採用や昇進など人事にかかわる意思決定と職場の人間関係です。また、偏った組織構成になることで戦力の低下や採用難を生み出す可能性もあります。とりわけ、管理職やリーダーは注意が必要です。例えば、眉をひそめる、相手を見ずに話を聞く、腕組みをするなどは、どれも取るに足らない小さなこと。これは「マイクロメッセージ」と呼ばれていますが、このような行動を上司が行った時、部下や立場の弱い人は恐れや不安、ストレスを感じることがあります。管理職など力を持つものは自分自身のもつ「力」を自覚し、意識的に取り扱う必要があります。アンコンシャス・バイアスに気づくためには、自分を客観的に見る能力(メタ認知)が重要です。感情的になりそうになるときは一呼吸おいて自分を見つめ直します。自分の持つバイアスに気づき、その周辺にどのような影響を与えているかを自覚する。これが第一歩となります。

5 アンコンシャス・バイアスの企業における代表的な事例
(1)正常バイアス
 危機的状況になっても、自分の都合の悪い情報は無視あるいは過小評価し自分は大丈夫と思い込む。このような場合、組織で起きている危機に気づかず、目先の業務に追われ対応が遅れるリスクがあります。
(2)集団同調性バイアス
 集団に属することで、同町傾向・圧力が強まり周囲に合わせてしまう。このような空気が蔓延すると多角的な視点で物事を見る機会が失われ、活発な議論が出にくくなり、組織としての成長が損なわれます。意思決定はすべて多数決にしていないか?少数意見=間違いという思考になっていないか今一度確かめてください。
(3)権威バイアス
 社長や役員など偉い人が言うことは間違いないと思い込むこと。社員の成長機会を奪い、モチベーションが下がり、組織全体の推進力を奪うことに繋がります。社長と社員の意見が食い違ったちき、中身を吟味しないで社長の意見を通していませんか?意思決定者を設けることは大切ですが出された意見にきちんと耳を傾けているか見直してください。
(4)確証バイアス
 自分が感覚的に良いと思った意見に合わせてデータを集めてしまうこと。自分の考えを肯定する情報のみ参考にして否定する情報は無視すること。例えば、母親は子育てに専念すべきだから女性社員は出張しないほうがいいとか、外国人は営業や接客を任さないほうがよいなど。本人のやる気や事情も聞かずに仕事を割り当てていませんか。社員の成長機会を奪い実力が正しく評価されないリスクがあります。
 これらは、ほんの一例で、その種類は150以上あります。

6 アンコンシャス・バイアスに取り組む5つの効果
① 管理職やリーダーの自覚によりマネジメントの質が向上
② ハラスメントの予防防止効果
③ 職場の多様性、安心安全な職場環境の推進
④ 多様な社員がその人らしく能力発揮
⑤ 採用率の向上・離職率の低下により持続的成長・業績向上

7 アンコシャス・バイアスの3つのトレーニング法
(1)認識する
 アンコンシャス・バイアスの意味を理解するだけでなく、具体的に知ることで新たな気づきがあるはずです。社員一人一人へ周知させることが重要なため、セミナーや研修を定期的に受講する機会を設け、互いに偏見への気づきを指摘しあえる環境をつくるのが効果的です。
(2)体験する
 自身がどのようなアンコンシャス・バイアスを持っているのか自覚することです。無意識に作用するものなので自覚することが難しく周りに客観的な意見を求めるのが良いでしょう。診断テストを受けるのも一つです。そして、あえて多様なチーム編成やプロジェクトチームで成功体験することで偏見を塗り替えることもアンコンシャス・バイアスを乗り越えるきっかけとなります。
(3)仕組みを変える
 アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているものであり意図せずして意思決定に影響を与えます。そのため、評価の仕組み自体を変えてしまうことで無意識の偏見を排除します。具体的には職務に関係のない情報を排除して書類選考する「採用のブラインド化」、すべての応募者に同じ質問をする「構造化面接」などです。
 結局のところ相手のとらえ方で変わるものです。対策としては、重要な事項は勝手に決めず本人に聞いてみる、認識のズレが生じたときお互いの「当たり前」を振り返る、相手が負の感情を覚えたら撤回して謝罪する、です。
 コロナ禍で働き方の変化を求められている今こそ、ものの見方を変え、多様性に気づくチャンスにして対話を積極的に行うことが求められます。

       

所長 堀 裕彦 中小企業庁“ちいさな企業

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